【城郭研究家・西股総生氏『杉山城の時代』発売】本に込めた想いと杉山城問題のこれから
2017年11月14日 更新

【城郭研究家・西股総生氏『杉山城の時代』発売】本に込めた想いと杉山城問題のこれから

城好きなら一度は訪れてみたいと思う杉山城(埼玉県比企郡)。緻密な縄張りをもつこの城が必要とされた時代について、徹底的に検証した『杉山城の時代』が発売されました。今回は、2017年11月9日(木)、書泉グランデ(東京都千代田区)にて開催された、著者の城郭研究家・西股総生氏による出版記念トークショーをレポート。本には書ききれなかった話、裏話も満載です!

みのうち社みのうち社

杉山城が直面した「問題」とは!?

杉山城入り口

杉山城入り口

via 写真提供:みのうち社
土の城好きの間で人気急上昇中の杉山城。
歩きやすく、起伏に富んだ道は風景に変化をもたらし散策しがいがあるお城です。

そんな杉山城ですが、その縄張りの緻密さとは裏腹に、誰がいつ何のために造ったのか、はっきりしていません。
しばらくの間、その緻密な縄張りから、城郭研究者の間で「戦国時代の北条氏が造った城だ」と言われていました。
しかし発掘調査が行われた結果、出土品の年代から「北条氏の前にこの辺を支配していた山内上杉氏が造った」という説が浮上し、これに「足利高基書状」における「椙山之陣(すぎやまのじん)」の考察が加わり、どの説が正しいのか、今に至るまで決着していません。
これらの動きは「杉山城問題」と呼ばれるようになります。

一般のお城好きにとって杉山城問題はなんとなく知っている程度。
そこで当事者としてこの問題に長年関わってきた城郭・戦国史研究家の西股総生氏は、問題の経緯を誰でもわかるよう一冊の本にまとめました。それが新刊『杉山城の時代』です。
西股氏はナワバリスト(城郭研究家)として土の城を縄張りから研究する一方、土の城の魅力を伝えるため、数多くの書籍を出版しています。
本書では問題浮上以前の杉山城の扱われ方、問題浮上の経緯を時系列で丁寧に記し、そのうえで縄張り・文献から徹底的に比較・検証しています。

たった一つのお城の年代を巡り、さまざまな考察が行われてきたこと、そしてこの考察の積み重ねが城郭研究をさらに先へと進めるきっかけになったということが読み取れます。
お城を好きになり、山城にも足を運び始めた方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。

それでは、レポートの前に杉山城についてご紹介しておきましょう。

杉山城ってどんな城?

杉山城の起伏に富んだ縄張り

杉山城の起伏に富んだ縄張り

via 写真提供:みのうち社
杉山城は埼玉県比企郡嵐山町杉山にある土のお城です。
史跡として整備されているので整備しやすく、歩きやすい「丘」といった風情があります。

『杉山城の時代』によると、杉山城の最大の特徴として、曲輪と曲輪を繋ぐ土橋、出入り口となる虎口に対し、ピンポイントで徹底的に横矢を掛けている点を挙げています。
写真・イラスト提供:みのうち社 (9823)

via 写真・イラスト提供:みのうち社
手前味噌な横矢掛り解説。このように土橋を渡ってきた敵に対し、2方向から矢(あれば鉄砲)を仕掛けられる縄張りになっています。

専門用語を列挙しましたが、ようは「めちゃくちゃ戦闘力が高くて防御力が高い城」というわけです。
(もう少し縄張りについて詳しく知りたい方は『杉山城の時代』、または砕いた内容の『首都圏発 戦国の城の歩きかた』をご参照あれ!)
杉山城は比企城館跡群の1つとして2008年に国の史跡に指定されました。1973年に国の史跡に指定された菅谷館跡と、2008年に杉山城とあわせて追加された松山城、小倉城を合わせて比企城館跡群と呼びます。
比企城館跡群の他のお城についてもご紹介しておきましょう。

菅谷館跡(埼玉県比企郡)

菅谷館跡 本丸周囲の堀と土塁

菅谷館跡 本丸周囲の堀と土塁

鎌倉時代の御家人・畠山重忠の館跡と伝えられています。
しかし伝説の根拠がないこと、現在残されている遺構は戦国末期の色が強く、特に北条氏の特徴が表れており、長年使われていくうちに形が進化していったと推測されています。
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みのうち社

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歴史好きなイラストレーター&ライター、デザイナー、編集者の3人組。 武将の城や偉人の史跡、神社仏閣、美術など、身近にあるものでも最大限に楽しめる「歴史エコ」な情報を発信していきたいと思います。 今後は、各種イベントや本の企画など、歴史にまつわる仕事をしていく予定です。よろしくお願いします! 公式

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