幕末の「いだてん」たちに括目せよ!映画『サムライマラソン』レビュー
2019年2月5日 更新

幕末の「いだてん」たちに括目せよ!映画『サムライマラソン』レビュー

NHK大河ドラマ『いだてん』でも取り上げられ、2020東京五輪でも注目の競技・マラソン。日本人にとって馴染み深いマラソンが江戸時代にも行われていたことをご存知でしょうか?2月22日公開予定の映画『サムライマラソン』は日本初のマラソンを題材とした映画。その内容をマラソンランナーのごとく俊足レビューでお届けします!

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安政遠足(あんせいとおあし)とは?

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『サムライマラソン』の原案となったのは、安政2(1855)年に安中藩(現在の群馬県安中市)で行われた「安政遠足(あんせいとおあし)」です。
世は幕末。嘉永6(1853)年、アメリカ合衆国のマシュー・ペリーが浦賀に来航。江戸幕府は翌安政元(1854)年にアメリカと日米和親条約を結びます。鎖国により長い間平和を維持してきた日本。にわかに異国からの脅威にさらされた江戸幕府は、日本にとって不平等ともいえる条約を結んでしまうのです。

そんな時代の流れを受け、安政2(1855)年、安中藩主板倉勝明は、藩士96人に鍛錬を目的としたマラソンを命じます。コースは安中城門から碓氷峠の熊野権現神社まで、総走行距離は7里余り(約30km)。現在のフルマラソンの42.195kmよりも短い距離ですが、標高差が1000m以上もあり過酷なものでした。走るためのトレーニングをしていなかった藩士にとって命がけのレースであったことでしょう。
この「安政遠足」を題材とした小説「幕末まらそん侍」を映画化したのが、『サムライマラソン』です。映画では15里(約58km)もの遠足が描かれています。
安中藩主板倉勝明を演じるのは、長谷川博己さん

安中藩主板倉勝明を演じるのは、長谷川博己さん

via ©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

‟見やすい”時代劇

映画を観た第一印象は「良い意味で時代劇らしくない」でした。
仰々しい侍言葉は少なく、セリフが頭に入りやすい。見た目にも配慮されていて、いかにも時代劇っぽい裃(かみしも)姿の侍も登場しません。ワダエミさんの鮮やかで柔軟な発想から生まれた衣装がキャラクターを引き立てています。「いかにも」な時代劇にやや抵抗がある方でも大丈夫。時代劇を見慣れていなくても、とっつきやすいと思いました。マラソンに興味があるけど時代劇はちょっと……という方も安心して観られます。
©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON (27516)

via ©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

日本の美しい風景がドラマを彩る

現代のようにアスファルトで整備された道がなかった江戸時代。侍たちは木々が生い茂る古道や渓谷など、時に危険を伴う大自然の中を走りぬけます。その景色の美しいこと! 
天候は晴れたり雨が降ったりとせわしなく変化しますが、これはあえてそうしたとのこと。変わりやすい山の天候をそのまま活かした画面が、舞台背景にリアリティを生みだしています。
©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON (27515)

via ©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

等身大の人間ドラマ

マラソンといえば持久力が必要な過酷なスポーツ。走る理由がないとモチベーションは保てません。それは江戸時代の藩士たちも一緒。藩主に命ぜられた遠足ですが、参加者それぞれに「走る理由」があります。藩主の娘と結婚するために何が何でも優勝したい者、侍になりたい足軽、隠居前に一花咲かせたい老侍……そして江戸幕府のスパイとして安中藩に潜入している忍びや、江戸に行きたいお姫様など、個性あふれるキャラクターたちがそれぞれの「優勝したい」という思いを胸に安政遠足に挑むのです。

好きな人と一緒になりたい、出世したい、一花咲かせたい、夢を叶えたい、大切なものを守りたい……藩士たちの望みは、現代を生きる我々となんら変わりありません。人間味あふれる彼らに感情移入せずにはいられないでしょう。遠足の中で成長していく登場人物たちの心の変化も見逃せません。
雪姫を演じる小松菜奈さん

雪姫を演じる小松菜奈さん

via ©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON
特に筆者が注目したのは安中藩主・板倉勝明の娘、雪姫。
夢を持ち、それを叶えるために自ら行動する彼女の姿は、封建社会が終わりを迎えようとしている幕末を象徴するキャラクターとして鮮やかに映画を彩ります。彼女の成長も必見です。

アクションシーンも熱い!

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みかめゆきよみ

みかめゆきよみ

漫画家、イラストレーター、ライティングも少々。プロの真田幸村ファン(自称)。火縄銃・居合などの実践経験を活かした記事が得意。エンタメを通じて歴史の楽しさを伝えることがモットー。著書に『ふぅ〜ん、真田丸』(実業之日本社)。『北条太平記』(桜雲社)。『戦国の城がいちばんよくわかる本』(西股総生著 KKベストセラーズ/イラスト担当)、『真田幸村の系譜 直系子孫が語る四〇〇年』(真田徹著 河出書房新社/ 執筆協力 )。 公式

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