墓はあるけど謎だらけ!「八百屋お七」悲劇のヒロインの真相
2018年3月29日 更新

墓はあるけど謎だらけ!「八百屋お七」悲劇のヒロインの真相

恋人に会いたい一心で放火事件を起こし、火刑に処された少女「八百屋お七」。しかし実際のお七は、八百屋の娘ということも含め、はっきりとわかっていません。その謎だらけの伝説がかえって関心を呼び、創作が盛り込まれ、私たちの知るお七になっているのです。今回は残された史跡を巡りながら、お七の実像を探ります。

岡田英之岡田英之

実在のお七と創造のお七

八百屋お七

八百屋お七

二代目 歌川国輝画
お七は、駒込または本郷において八百屋を営んでいた家の娘とされ、天和2年(1683)に発生した「天和の大火」によって被災した一人といわれています。
駒込の大円寺から出火したとされるこの大火は、17時間余り燃え続け、死者3000名を超える一大火災となりました。

このため、お七は家族とともに、一家とゆかりのある寺に一時避難を余儀なくされました。
この寺は、記録や物語によって諸説ありますが、正仙院(本郷の正泉院のことか)とも、小石川の円乗寺、駒込の吉祥寺などともされています。

しかし、このうち少なくとも駒込の吉祥寺であるというのは、井原西鶴の『好色五人女』による創作で、特に舞台としてより知名度の高い寺を選んだようです。
現在知られているお七の姿は、ほぼこの作品による影響が大きいようです。
吉祥寺(東京都文京区)

吉祥寺(東京都文京区)

吉祥寺といえば武蔵野市のほうが浮かびますが、もともとはこちらのほうの住民が「明暦の大火」で家を失い、移り住んだことにより生まれた地名だとか。
ここには、恋仲にありながら不幸にも亡くなった男女を弔う「比翼塚」があり、お七と吉三郎を供養する石塔もひっそりと建てられています。

彼の名は、吉三郎?それとも?

お七はその避難先の寺で小姓をしていた人物と密かな恋仲になります。
この小姓についても、一般的には、井原西鶴『好色五人女』の影響から「吉三郎」が有名ですが、他にも「山田左兵衛」「生田庄之助(庄之介)」とするものがあります。

吉三郎は、当時悪人として名を馳せていた人物の名のようで、物語によっては、お七をそそのかす立場で登場します。井原西鶴は、万人に受ける物語とするために、有名どころを当てたり脚色を施したりしているのですね。

一方、生田庄之助は『天和笑委集』に見られる名前なのですが、お七の処刑からわずかの期間で書かれているため、より史実に近いと考えることもできます。
井原西鶴『好色五人女』

井原西鶴『好色五人女』

吉三郎(左)の指に刺さったトゲを母(中央)に代わってお七(右)が抜く場面。庭には避難してきたお七の家の家財道具が並べられています。

15歳の少女が火あぶりの刑に…

その後、駒込または本郷の町が復興し、八百屋が建てなおされたため、避難先の寺を去ることになりました。密かな恋はそのまま、別れ別れになってしまったのです。

元の生活に戻っていくということは、本来なら喜ぶべきことです。しかしお七は、寺の小姓のことが気になってしかたなく、また共に生活したいと日々思い焦がれるようになります。
かなわぬ恋とわかるだけに一層その思いは強くなり、苦悶した揚句に一つの閃きがありました。

「もしも、再びこの町を焼け出されたら、この家が焼けてしまったら、また寺に避難して、あの小姓と一緒に生活が出来る」
櫓のお七

櫓のお七

歌川国貞画
しかし、この思い付きは大変危険なものでした。
もちろん、そううまく火災が起こるはずもなく、思いつめたお七は、遂に自分の家に放火してしまうのです。

物語によっては、火事でもないのに非常時を知らせる「半鐘」を鳴らしたともされています。
幸い、近所の人たちの消火活動によってこの放火はぼやで消し止められ、大事には至りませんでした。

とはいっても、町を焼け野原にしてしまう火事は江戸の脅威。それを引き起こす放火は重罪でした。
また、非常時でもないのに半鐘を鳴らすことも人々に大きな混乱を招くことになるため、重罪になりました。
それでもお七は小姓と暮らしたい一心で、この様な行動に出てしまったのです。
鈴ヶ森刑場遺跡(東京都品川区)

鈴ヶ森刑場遺跡(東京都品川区)

日光街道沿いにあった小塚原刑場とともに、東海道沿いに設置されていた刑場。現在も井戸や火あぶり用の鉄柱、磔用の木柱を立てた礎石などが残されています。
お七と小姓の恋はかなうことなく、重い罪に問われたお七は、鈴ヶ森の処刑場にて火あぶりの刑となってしまいました。
その年齢は、わずか15歳であったと言われます。物語によっては、年が若く減刑の可能性があったものの、庄之助に迷惑をかけない様にと、放火の理由を明確にせずに極刑を受けたともされています。

お七の墓がある円乗寺(東京都文京区)

円乗寺にあるお七のお墓

円乗寺にあるお七のお墓

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この記事のキュレーター

岡田英之

岡田英之

おかだひでゆき。1977年、神奈川県生まれ。株式会社歩き旅応援舎での古地図散歩や、SNSを活用した博物館散歩、鎌倉散歩といった街歩きなどのガイドを務める。特に、歴史ある「場所」「モノ」に対する、専門用語を使わない、わかりやすい解説を得意としている。テレビ朝日系列「羽鳥慎一のモーニングショー」のコーナー、「良純未来図」や、BS朝日の「テイバン・タイムズ」に歴史案内人として複数回出演。著書に『東京街かど タイムトリップ』(河出書房新社)がある。 公式

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