【 武田信玄も好んで食べていた!?】「海なし県」なのに特産物がアワビの謎
2017年3月31日 更新

【 武田信玄も好んで食べていた!?】「海なし県」なのに特産物がアワビの謎

武田信玄が本拠地とした甲斐(現在の山梨県)は海から距離が遠い内陸部にあります。今川家と北条家と敵対した際に塩が手に入らなくなり、上杉謙信が手を差し伸べた「敵に塩を送る」という言葉が物語りますね。そんな山梨県に昔から伝わる「海産物の郷土料理」があるのをご存知ですか?

ユカリノ編集部ユカリノ編集部

山梨県の郷土料理と言えば「ほうとう」

ほうとう

ほうとう

 山梨県の名物といえば、小麦粉でつくった生地をざっくり切った麺「ほうとう」と野菜をみそ仕立ての汁で煮込んだ郷土料理がよく知られています。武田信玄の陣中食との俗説もありますが、山里で得られる食材がふんだんに使われており、いかにも内陸地の料理といった風合いがあります。

実は山梨名物!海の特産物「煮貝」とは?

そんな「海なし県」の山梨に古くから意外な特産品が伝わっています。それは貝殻から外したアワビの身と肝を醤油ベースの煮汁で煮浸しにした「煮貝」です。ただでさえ高級な海産物であるアワビ。もちろん煮貝も高級品であり、山梨県では祝いの席など大事な場面の贈答品として扱われ、日常の食卓ではお目に掛かることはまずないそうです。

ほどよく醤油がきいた風味とアワビならではの歯ごたえある食感が大変に美味で、煮汁をそのまま使えば炊き込み飯にもなります。
あの有名グルメ漫画でも取り上げられるほどの美味さ。

「海なし」を克服するために発達した運搬ルート

『富嶽三十六景 身延川裏不二』における駿州往還(葛飾北斎)

『富嶽三十六景 身延川裏不二』における駿州往還(葛飾北斎)

かつて甲斐と呼ばれていた山梨県には、海に面している駿河(現在の静岡県東部)や相模(神奈川県)から海産物が運ばれていました。しかし冷蔵庫がなかった時代に海産物を内陸へ運ぶ場合、日持ちするよう塩や醤油に漬けるか、干物にするなど保存加工をする必要がありました。

加工を施したとはいえ劣化を防ぐため運搬ルートも配慮され、甲斐と駿河を結ぶ5つの街道のうち、富士川に沿った駿州往還または精進湖や本栖湖の近くを通る中道往還(甲駿街道とも)が主に使われました。いずれも富士山麓の寒冷な道筋で、鮮度を保つのに有利だったことがその理由です。冷蔵技術のない時代でも甲斐で海産物を食すことは決して不可能ではなかったのです。

あの武田信玄もアワビを食べていた?

『川中島百勇将戦之内』「明将 武田晴信入道信玄」

『川中島百勇将戦之内』「明将 武田晴信入道信玄」

そうして甲斐で食べられた海産物の一つが「煮貝」でした。醤油漬けされたアワビを木樽に入れ、馬の背に乗せて甲斐へ運んだところ、馬の体温と揺れの振動で醤油がアワビによく染み込み、甲斐に到着するころには美味に仕上がったという伝承があります。

いつごろから甲斐で食されるようになったのかは諸説あります。戦国大名武田氏の合戦を記録した軍学書『甲陽軍鑑』には、「貝鮑」というハレの日の料理についての記述があります。また、信玄が住んだ躑躅ヶ崎館跡や家臣の屋敷跡でアワビの貝殻が見つかっています。そうなると郷土料理の「ほうとう」と同じように、武田信玄ゆかりの特産品と考えたいところですよね。

山梨県で煮貝を扱う店舗には、信玄との関係を売り文句にしているところもありますが、煮貝は貝殻を外して加工するので、信玄が生きていた時代に甲斐で食されていたアワビ料理とは残念ながら別物だろうと考えられています。
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