「日本男色史巡り 第2回:陰間茶屋」美少年版キャバクラ・男も女も魅了した陰間の持つ魅力とは…?
2018年3月30日 更新

「日本男色史巡り 第2回:陰間茶屋」美少年版キャバクラ・男も女も魅了した陰間の持つ魅力とは…?

日本の男色史を、ゆかりの品や場所とともにご紹介する連載『日本男色史巡り』。第2回は、江戸時代に繫盛した美少年版キャバクラ「陰間茶屋」をご紹介します。柘榴の皮で肌を、笹灰で歯を磨き、現代のモデル顔負けの情熱を美容に燃やした少年たち。その美貌は男女問わず、人々を魅了しました。今回は茶屋のあった町や、彼らの愛用した温泉地などをご紹介します。そして、陰間茶屋がきっかけにコンビを組んだ誰もが知るあの二人の石像も!?

黒澤はゆま黒澤はゆま

16歳が花の盛り!? 美少年を集めた陰間茶屋

江戸時代になり、ささやかながら資本主義の萌芽が、各都市にあらわれはじめると、それまで寺院や貴族、武士によって独占されていたものが、お金さえ払えば庶民にも手に入るようになります。

もっとも顕著な例が、歌舞伎などの芸能で、アマノウズメ以来、神様を讃えるためのものだった「芸」は、人間を詠うものに変わります。そして、それに従事していた美少年もまた、寺院やお城の深奥から、庶民たちのもとへ舞い降りてくるのです。

その幸福な邂逅を見ることが出来るのが「若衆歌舞伎図」です。
若衆歌舞伎図

若衆歌舞伎図

舞台の上で踊る、美しく着飾った少年たち。彼らの事を庶民は讃仰の眼差しで見上げました。観衆のなかには、女性の姿もあり、老若男女の別なく人々は、美少年の姿に、男や女といった生臭い存在になる前の、生のままの美しさを見出したのです。

そして、美しいものを見れば、見るだけではなく、手に入れたくなるのが人情というもの。まして我が国にあって、性は聖。交情によってこそ、神聖なものと一体になれると考えるお国柄でした。

結果、大都市のそちこちに、美少年を囲う、少年版キャバクラともいうべき、施設が出来ます。

その名も陰間茶屋。

少年たちの多くが、まだ舞台に出れず、楽屋裏の「陰間」に控える役者の卵だったため、そう名付けられたといいます。

年齢については、十六歳がベストだと思われていたようです。『男色実語教』 に以下のような記述があります。
十六歳を若衆の春と言うべきです。十一より四までが花のつぼみ、十五より八が盛りの花、十九より二十二までを散る花と定めるべきでしょう。
via (男色実語教より意訳)
これは、少年の美について、古代ローマ・ギリシャを通じて詠われた、次のような詩と一脈通じるものがあります。
十二歳の花盛りの少年は素晴らしい。十三歳はもっと素敵だ。十四歳の少年はなお甘い愛の花。十五歳になったばかりの少年は一層輝く。十六歳だと、神の相手がふさわしい。十七歳の少年となると、おれじゃなく、ゼウス神の相手だ、あぁ!
古今東西を問わず、少年の美の盛りは、大体十六歳くらいということになるのでしょうね。

少年の産地はどこでもいいというわけではなく、江戸よりも上方の方が望ましいと言われていました。これは、江戸っ子は気が強く陰間にふさわしいたおやかさがないせいで、一方、上方の少年は姿も心も優しく、たとえ鉄の心を持つ相手でも、とろとろにとろかしてしまう媚びを天性持っていると考えられたためでした。

少年たちは、現在のモデル顔負けで、美容に情熱を燃やし、日夜、柘榴の皮で肌を擦り、歯も笹竹の灰で磨き上げました。成熟して猛々しい姿になるのを少しでも遅らせるため、桜の花びらも服用したといいます。これは、桜の花びらが女性ホルモンを増進させる効果があるためでした。


菊の花にたとえられる、繊細な部位についても、客を喜ばせ、さらに自分が怪我などしないようにするため、加工を加えました。男性器を模した棒に綿を巻き、胆礬(硫酸銅)をゴマ油で溶いたものを塗ります。そして、これを腰湯をしたあと一晩中入れておいたというのです。これは棒ぐすりという秘技で、『色道禁秘抄』『女大楽宝開』などに記録が残っています。

芝居町の近くに作られた陰間茶屋

京の宮川町の陰間茶屋にて。

京の宮川町の陰間茶屋にて。

男性客(左)の背後で女中(右)と接吻をする紫帽子を被った色若衆(中央)。西川祐信作。(1716年〜1735年頃)
via https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Nishikawa-Sukenobu.jpg
こうして身も心も人を和ませ喜ばせるように操作された少年で満載の茶屋は、成り立ちかも分かる通り、主に芝居町の近くに作られました。

江戸では、芳町 (現日本橋人形町一丁目~三丁目)、湯島天神(現東京都文京区湯島三丁目)などが有名で、京では宮川(現京都府京都市東山区宮川)、大阪では道頓堀(現大阪府大阪市中央区道頓堀)に、美少年たちが山盛りの茶屋がありました。

芳町は歌舞伎の中村座、市村座があった芝居町、道頓堀には浄瑠璃の竹本座、歌舞伎の中座、角座、浪花座がありました。宮川も歌舞伎発祥の地、四条河原のすぐそばです。

例外は、湯島天神で、こちらは上野寛永寺の僧侶たちをあてこんだものと言われています。

意外なのは、寛政の改革で有名な松平定信のおひざ元、白河(陸奥)にもあったということです。

現在の福島県白河市一番町あたりだったそうですが、ここはよほど大きなものだったのか、元禄六年(1693年)に「野郎が茶屋火事」と名付けられる大火を起こしています。野郎は陰間の別名ですが、いくら男色好きでも、こんな名前の火事では死にたくないものですね。

陰間茶屋は客が登楼する形式と、客のいる場所に少年が行く形式の二つがあり、大体が前者のいわば店舗型か、だったようですが、道頓堀などは表立っては店を構えず、普通の遊郭に呼ばれたら行くいわば派遣型が専らでした。

相場は、場所によってまちまちだったたでしょうが、芳町の陰間茶屋を紹介した『江戸男色細見-菊の園-』を参考にすると、昼の時間を六つ切り、夜を六つ切りとして、「一切れ」(二時間)は金一分、「仕舞」(一日買い切り)は金三両、「片仕舞」(半日買い)は金一両二分かかったそうです。この他にも小花代というチップが一分かかります。
江戸男色細見

江戸男色細見

via 国立国会図書館デジタルコレクション
江戸中期における一両(四分)は大体現在の十万円相当とされているので、一日遊び倒そうと思ったら、チップ代も含めて大体三十二万円はかかるということになりますね。

ちなみに当時、時間はどう計ったかというと、それは線香ではかりました。
江戸時代のタイマーだった線香

江戸時代のタイマーだった線香

少年たちの名前の書かれた箱に線香が刺さっています。絵に出てくる親父は茶屋の主でしょうか?濡れ場をこっそりのぞいているようです。
via 『会本色好乃人式』(『江戸の色道―古川柳から覗く男色の世界―』より)
その様子を紹介しているのが上の絵ですが、陰間の名が記された箱に、線香が立てられています。この線香が燃え尽きると「お迎いでござります」と声がかかり、楽しい時間もそれまで。嫌な客が相手の場合は、こっそり陰間側が線香を折る場合もあったらしく、こんな句が残っています。
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黒澤はゆま

黒澤はゆま

宮崎生まれ。大阪在住。2013年に歴史小説『劉邦の宦官』でデビュー。他著作に真田昌幸の少年時代を描いた『九度山秘録』、世界史・日本史上の少年愛を紹介した『なぜ闘う男は少年が好きなのか』がある。愛するものはお酒と路地の猫。 公式

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