【将軍の御落胤】江戸初期の三名君のひとり・保科正之とゆかりの地
2018年12月18日 更新

【将軍の御落胤】江戸初期の三名君のひとり・保科正之とゆかりの地

徳川秀忠の四男ながらもその存在を隠された保科正之は、典型的な「御落胤」でした。のちに保科家を継いだ彼は、家臣として将軍家を支え続け、後の会津松平家の祖となったのです。今も名君として伝わる保科正之の数奇な人生をゆかりの地とともにご紹介しましょう。

ユカリノ編集部ユカリノ編集部

庶子ゆえに他家で養育された正之

「江戸時代でも屈指の名君との呼び声が高い保科正之」

「江戸時代でも屈指の名君との呼び声が高い保科正之」

正之が生まれたのは慶長16(1611)年のこと。父は第2代将軍・徳川秀忠ですが、母は身分の低いお静という女性でした。そのため、正室の目を憚った秀忠は、徳川家に保護されていた武田信玄の二女・見性院に正之を預けて養育を頼みます。正之の誕生自体、秀忠の側近数人しか知りませんでした。

正之は、元和3(1617)年に生母のお静と共に高遠城へとやって来ます。そして信濃高遠藩主・保科正光の養子となり、寛永8(1631)年に藩主の座に就きました。

高遠城址(長野県伊那市)

「現在は城址公園となり桜の名所に。この南曲輪屋敷で正之...

「現在は城址公園となり桜の名所に。この南曲輪屋敷で正之は成長した」

ここで19年を過ごした正之は、養父・正光から熱心な教育を受け、保科家への思いを強くしました。後に彼が松平姓を名乗ることを固辞したのには、保科家への恩義があったからです。

長年伏せられていた出生の秘密も、やがて異母兄・家光らの知るところとなりました。家光が鷹狩りの際に立ち寄った寺の僧が事実を告げたとも言われていますね。

家光は正之を疎んじることなく、かえってとても可愛がったそうです。というのも、正之が謙虚な姿勢を崩さず、あくまで家臣として将軍家に忠義を尽くしたからだそうですよ。

将軍を支える重鎮となる

「正之を気に入り、引き立てた長兄・徳川家光。次兄・忠長...

「正之を気に入り、引き立てた長兄・徳川家光。次兄・忠長も正之を可愛がったと言う」

家光に気に入られた正之は、その下で順調に出世して行きました。出羽山形20万石の藩主となり、寛永20(1643)年には会津23万石を与えられます。
死の床にあった家光は、枕頭に正之を呼び寄せ、「徳川宗家を頼む」と言い残します。正之は兄の言葉に感銘を受け、「会津家訓十五箇条」を制定し、将軍家への忠誠を盛り込みました。幕末、会津藩が幕府に忠義を捧げたのはここから来ているわけですね。

大政参与となった正之は、家光の息子・家綱を補佐して文治政治に取り組みました。殉死を禁じ、末期養子の禁を緩和したり、間引きを禁じたりするなど、人の命を重んじる政策が目立ちます。
また、明暦の大火の被災者の救済に当たり、焼失した江戸城天守については「無駄な出費を避けるべし」として再建せず、その資金を被災者支援に回しました。

一方、会津藩では米を積み立てて飢饉に備えるなどリスク管理にも目を向け、90歳以上の高齢者に米を支給するなど年金のような制度もつくりました。

正之を祀る「土津神社」(福島県猪苗代町)

「紅葉の美しさが有名でもある土津(はにつ)神社」

「紅葉の美しさが有名でもある土津(はにつ)神社」

via 写真提供:福島県観光復興推進委員会
寛文12(1673)年、江戸の藩邸で亡くなった正之は、予め墓所をこの場所に定めていたそうです。生前より神道を学んでいたため、神式で埋葬され、延宝3(1675)年に土津神社が造られました。戊辰戦争で焼失してしまいますが、明治13(1880)年に再建されています。
幕府から松平姓を名乗るよう勧められても、生涯保科姓を通した正之。
その人間性を育んだ高遠の地と、仏式でなく神式を選んだ最期の地。誠実さを貫き、今も「屈指の名君」として名を残す彼の思いを感じたいですね。

(xiao)
15 件

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

ユカリノ編集部

ユカリノ編集部

全国各地の「ゆかりの」エピソードをほぼ毎日お届け。知ればもっと行きたくなる、歴史の聖地巡礼へご案内します! 公式

関連する記事 こんな記事も人気です♪

一度は見たい!全国の「性」にまつわる奇祭5選【日本名珍祭り図鑑】

一度は見たい!全国の「性」にまつわる奇祭5選【日本名珍祭り図鑑】

祭り写真家の芳賀日向さんが、日本全国よりその土地ならではの珍しい祭りを紹介する連載。今回は「性」にまつわる祭りです。日本の神様はとても人間らしく、祭りの中にも「性」に関する象徴や所作が数多く登場します。子孫繁栄、安産祈願はもちろん、農作物の豊作を願う「性」の祭りを5つ紹介します。
全国より厳選!この秋行きたい紅葉がきれいな城10選

全国より厳選!この秋行きたい紅葉がきれいな城10選

木々が色づく秋。街より少し標高の高い場所にある城は絶好の紅葉観賞スポットでもあり、イベントやライトアップも開催されます。今回は特に紅葉が見事な城を全国から厳選。紅葉が早いと思われる北方面から順にご紹介します。天守とのコントラスト、木々に囲まれた遺構がたまらない、今だけの景色が見られる季節にぜひお出かけください。
新設!「高輪ゲートウェイ駅」周辺の歴史と背景を探る【古地図と巡る江戸街並み探訪:第6回】

新設!「高輪ゲートウェイ駅」周辺の歴史と背景を探る【古地図と巡る江戸街並み探訪:第6回】

JR山手線の田町駅から品川駅の間に新設される駅が「高輪ゲートウェイ駅」とされることが発表され、色々と話題になっています。公募では下位にあった候補でしたが、「高輪」「芝浦」「芝浜」と言った歴史的名称を抑えて、一躍の採用。「ゲートウェイ」とは「玄関口」の意味。今回は、その背景や周辺の歴史を、古地図と今後の都市構想から探ってみます。
徳川幕府ゆかりの縁切寺・満徳寺、その驚くべき縁切り方法とは!?

徳川幕府ゆかりの縁切寺・満徳寺、その驚くべき縁切り方法とは!?

縁結びにご利益のある寺社は女性に人気の観光スポットとして定着していますが、「縁切り」にご利益のある寺社はそうそう見かけません。しかし徳川幕府の時代、「縁切寺」は女性にとってありがたい救済スポットでした。現在でも縁切寺として知られる群馬県太田市の満徳寺で行われている縁切りとはどのようなものなのか?江戸時代に縁切寺が必要だった理由とともに追ってみました。
"小江戸"川越の礎を築いた「知恵伊豆」こと松平信綱

"小江戸"川越の礎を築いた「知恵伊豆」こと松平信綱

徳川家光・家綱に仕えた老中・松平信綱。その聡明さから「知恵伊豆」と呼ばれました。彼がいたからこそ、この時代が保たれたといっても過言ではありません。そんな信綱の才覚と業績を紹介すると共に、彼が礎を築いた川越のまちをご紹介します。
かぶき者と呼ばれた名君・前田利常が築いた「加賀ルネサンス」文化

かぶき者と呼ばれた名君・前田利常が築いた「加賀ルネサンス」文化

加賀前田家3代、加賀藩の第2代藩主である前田利常。彼をご存じの方なら、まず思い浮かべるのが「鼻毛の殿様」のイメージかもしれません。傾奇者として知られた利常ですが、内政や文化面への功績も注目されてしかるべき点です。利常が推奨・保護した加賀百万石の華やかな伝統文化をご紹介します。
田園からおしゃれに進化!城や花街もあった渋谷の歴史【古地図と巡る江戸街並み探訪:第4回】

田園からおしゃれに進化!城や花街もあった渋谷の歴史【古地図と巡る江戸街並み探訪:第4回】

「は~るの小川は さらさら行くよ~♪」で有名な童謡『春の小川』。とても豊かで静かな自然を感じさせる、よく親しまれた歌ですが、この歌の小川、実は渋谷を流れている渋谷川のことを歌っているのです。現在ではすっかりその面影は無くし、ファッションや情報、若者文化の最先端を行く街・渋谷。昼夜を問わず賑やかなこの街の歴史を探しに行ってみましょう。
「“八重の桜”は宝物」綾瀬はるかさんの会津愛に感動『戊辰150周年記念式典&会津まつり』レポート

「“八重の桜”は宝物」綾瀬はるかさんの会津愛に感動『戊辰150周年記念式典&会津まつり』レポート

2018年9月22日(土)~24日(月)に福島県会津若松市で開催された「戊辰150周年記念会津まつり」。メインイベントとなる23日の藩公行列には、NHK大河ドラマ「八重の桜」で主役・山本八重を演じた綾瀬はるかさんと、その子供時代を演じた鈴木梨央さんが登場。おふたりは前日に行われた「戊辰150周年記念式典」のトークショーにも参加。祭りの模様と共に、式典での貴重なお話しをレポートします。
【今年も開催!しながわ宿場まつり】当代随一の宿場町・東海道「品川宿」の歴史とは?

【今年も開催!しながわ宿場まつり】当代随一の宿場町・東海道「品川宿」の歴史とは?

江戸時代、東海道53次最初の宿場町として栄えた品川宿。その伝統と文化を未来に伝え、地域の発展をめざして開催されるのが「しながわ宿場まつり」です。このエリアは正真正銘の旧東海道の品川宿。「北の吉原 南の品川」といわれ、大名行列や維新志士も通った東海道品川宿の歴史をご紹介します。
【18禁】春画と妖怪画がコラボ!春信などの人気絵師達が描く、古の大人の世界

【18禁】春画と妖怪画がコラボ!春信などの人気絵師達が描く、古の大人の世界

春画は単にエッチというだけでなく、その高い芸術性が海外でも高い評価を受けています。10月16日(火)から京都の細見美術館で開催される『描かれた「わらい」と「こわい」展-春画・妖怪画の世界-』では、日文研所蔵のコレクションから、厳選された春画と妖怪画をご紹介します。ちょっと赤面しながら、かなりドキドキしながら、古の大人の世界を覗いてみませんか。