「日本男色史巡り 第7回:岩田準一」南方熊楠・江戸川乱歩が認めた男色研究家の生涯を辿る
2018年3月30日 更新

「日本男色史巡り 第7回:岩田準一」南方熊楠・江戸川乱歩が認めた男色研究家の生涯を辿る

日本の男色史を、ゆかりの品や場所とともにご紹介する連載『日本男色史巡り』。第7回は、あの南方熊楠、江戸川乱歩も驚嘆した、伝説の男色研究家『岩田準一』を紹介します。竹久夢二の弟子という顔も持ち、自身も大変な美男子だった準一。華やかな交友歴のなかでも、特に江戸川乱歩との熱い?関係を中心に取り上げます。

黒澤はゆま黒澤はゆま

伝説の男色研究家 岩田準一

岩田準一肖像

岩田準一肖像

 
「岩田準一」
 
一般的にはそう有名ではないかもしれませんが、わたしのように男色の歴史に興味がある人間なら、知らぬもののいない名前です。
 
彼の残した『本朝男色考』はおよそ日本で男色とか耽美とかを勉強してみようという人なら、まず最初に手に取るべき本で、彼の生涯の盟友だった推理小説家、江戸川乱歩は、こんな言葉をこの本の初めにささげています。
この「男色考」は一時の気まぐれや稿料稼ぎに書いたものでなく、岩田君が殆ど生涯の事業といってもよいほどの熱意をこめて同性愛文学研究に没頭した、その第一着手の仕事であった。古文献の同性愛に関するものは殆ど漏らすところなく、これを引用し、孫引きを排して悉く原典につく努力を惜しまず、「同性愛史」乃至「同性愛文学史」として、世界にも類例のない忠実詳細な研究を成し遂げたのである
via 『本朝男色考・男色文献書志』(岩田準一著、原書房)
戦争へと向かう暗い世相のなかで、当時忘れ去られようとしていた、日本の男色の歴史、そしてその美しさを、再発見した偉大な風俗研究家、岩田準一。
 
今回は、彼の生涯を、その華やかな交友関係、史跡とともに、ご紹介していきたいと思います。
岩田準一の書斎 江戸川乱歩館

岩田準一の書斎 江戸川乱歩館

via 筆者撮影

竹久夢二、そして江戸川乱歩との出会い

鳥羽城跡より鳥羽の海を望む

鳥羽城跡より鳥羽の海を望む

準一が青春を過ごした鳥羽の町。当時の鳥羽の周辺には、江戸川乱歩だけでなく、梶井基次郎、小津安二郎など、後の文芸・映画界のスターたちが暮らしていました。ちなみに小津は準一と同じ三重県立第四中学校に通い、準一の一つ下の学年でした。準一の日記には、小津とおぼしき下級生の記述があるそうです。
via 筆者撮影
岩田準一の生涯については、『南方熊楠男色談義』の巻末に、実息岩田貞雄氏が記した「亡父岩田準一」がもっとも詳しいようです。
 
それによれば、明治23年(1900)3月19日、岩田準一は父・宮瀬東洋夫、母・岩田貞の三男として、現在の鳥羽市に生を受けました。
 
名字が違うことからお察しの通り、準一の両親は離婚しており、準一は貞のもとで育ちました。両親とも明治にふさわしい傑物で、東洋夫は津の国屋という置屋を経営しつつ、鳥羽町の初代町会議員や小学校の学務委員をつとめ、貞は貞で離婚後は女だてらに雑貨店を経営、多額納税者として選挙権まで取得したそうです。
 
ちなみに父東洋夫が経営していた津の国屋は、志摩特有の船女郎「はしりがね」を置いた店で、後年、準一は彼女たちの文化・風俗を描いた『はしりがね』という本を出版しています。
 
父東洋夫は商売柄か、よくいえば艶福家、悪く言えば奔放な人で、貞を娶ってからも妾を二人も囲い、それに怒って貞は家を飛び出したのでした。
 
準一は、男尊女卑の時代にあって、自立してバリバリと働き、おまけに読み書き算盤も達者で、読書家だった貞のことを大変に尊敬していたようです。一方、女性関係にだらしなかった父親の方については、反発もあったかもしれず、それが後年の男色研究につながったとみる向きもありますが、これは岩田貞雄氏も記している通り、考えすぎというやつで、生来の素質だったと考える方が妥当でしょう。
 
いずれにせよ、女傑と評したくなる母のもと、準一は精神的にはいざ知らず、物質的には大変豊かに育ったようです。体はあまり丈夫でなく、特に胃腸が弱かったそうですが、大変な美貌の持ち主で、優しい瓜実に筆ですーと刷いたような形の良い鼻が通り、目も怖いくらいに澄んだ少年に育ちました。
 

絵の才能の開花と、竹久夢二のとの出会い

竹久夢二

竹久夢二

via https://ja.wikipedia.org/wiki/
そして、彼の才能はまず絵画の方面で開花。

はやくも中学時代には、辰巳京太郎という雅号を持ち、さらにあの天才画家「竹久夢二」との交流がはじまります。

その生涯で、何度か繰り返されるのですが、準一は年長の大人に傾倒し、のめり込む向きがあったようで、夢二との関係はそのはじまりでした。文通がきっかけだった交流は、夢二が鳥羽の準一宅を訪れたり、逆に準一の方が京都まで夢二のもとを訪ねたりしながら加熱。準一は「日本一の夢二通」と夢二自身から称賛されるほどに、この16歳年上の大流行作家の虜となり、彼の絵本や絵葉書、楽譜に至るまで買いあさり、さらにその画風をまねているうちに、夢二そっくりの絵を描けるようになります。そして、ついに20歳の頃には夢二から代作を任されるまでになったのでした。

ただ、画業についてはこの辺りが頂点で、後はとある小説の挿絵を数点担当しただけで、絵筆から自然に遠のいていきました。
竹久夢二「黒船屋」

竹久夢二「黒船屋」

大正ロマンを代表する画家・夢二。その抒情的な作品は「夢二式美人」と呼ばれ、数多くの美人画を残しました。現在も画集・詩文集・童話などさまざまな装丁で刊行され、人気を誇っています。
via https://ja.wikipedia.org/

のちの江戸川乱歩こと、平井太郎との出会い

江戸川乱歩

江戸川乱歩

via https://ja.wikipedia.org/
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黒澤はゆま

黒澤はゆま

宮崎生まれ。大阪在住。2013年に歴史小説『劉邦の宦官』でデビュー。他著作に真田昌幸の少年時代を描いた『九度山秘録』、世界史・日本史上の少年愛を紹介した『なぜ闘う男は少年が好きなのか』がある。愛するものはお酒と路地の猫。 公式

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