黒澤明の映画で有名な「羅生門」を巡る、1300年の歴史旅
2018年9月10日 更新

黒澤明の映画で有名な「羅生門」を巡る、1300年の歴史旅

1951年の9月10日、黒澤明の「羅生門」がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞グランプリを受賞しました。日本初の海外映画祭グランプリ受賞という快挙は、昭和20年(1945)の敗戦によって打ちひしがれていた日本人に、大きな自信を与えました。そこで今回は「羅生門」を深堀りしながら時間旅行を楽しんでみましょう。

ユカリノ編集部ユカリノ編集部

黒澤明の映画「羅生門」とは

「羅生門」は平安時代後期の乱世を舞台に、人間不信とエゴイズムを描いたちょっと難解な作品。
荒れ果てた羅生門で出会った3人の男達が、奇妙な殺人事件について語るのですが、加害者の盗賊・多襄丸、殺された被害者の妻、巫女に喚び出された被害者の霊、それぞれが三者三様に異なる証言をし、さらに一部始終を藪の中から見ていた男も、また違う証言をするという内容です。

脚本は橋本忍、主演は三船敏郎、大映製作・配給の88分のモノクロ映画です。橋本忍が芥川龍之介の「藪の中」を脚色、そこに黒澤が「羅生門」などの要素を加えました。

「世界のクロサワ」のクロサワたる由縁

明治43年(1910)、東京に生まれた黒澤明は、昭和18年(1943)に「姿三四郎」で映画監督デビュー。戦後にはいって「わが青春に悔なし」「酔いどれ天使」「野良犬」などを公開後、昭和25年に「羅生門」を発表しました。

「羅生門」はヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞の後、同年にアカデミー賞名誉賞も受賞。その後も「生きる」でベルリン国際映画祭上院特別賞、「七人の侍」でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞、「蜘蛛の巣城」でベルリン国際映画祭銀熊賞と監督賞受賞と、「世界のクロサワ」の名を不動のものにしました。

そして「隠し砦の三悪人」「悪い奴ほどよく眠る」「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」「赤ひげ」などの名作を残し、晩年には「影武者」でカンヌ国際映画祭パルム・ドールなどを受賞、そして「乱」でアカデミー賞ノミネート。

平成2年(1990)に再びアカデミー名誉賞を受賞した際は、あのジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグから、「現役の世界最高の監督、映画とは何かに応えてくれた数少ない映画人」と、最高の賛辞を贈られました。

原作になったのは、芥川龍之介の小説

芥川龍之介の肖像

芥川龍之介の肖像

この映画「羅生門」の原作になったのが、芥川龍之介(1892-1927)の小説「羅生門」(1915年)と「藪の中」(1922年)です。「羅生門」を発表した時、芥川龍之介はまだ23歳、東京帝国大学の学生でした。

「羅生門」も「藪の中」も、平安時代末期に成立したといわれる「今昔物語」を元にしたもの。

「羅生門」によって芥川は夏目漱石の門下にはいるきっかけをつかみ、25歳の時に発表した「鼻」で漱石に絶賛されます。その後も「芋粥」「蜘蛛の糸」「地獄変」「邪宗門」「杜子春」「トロッコ」「河童」「或阿呆の一生」などを発表し、今も多くのファンを魅了しています。

小説「羅生門」の元になった「今昔物語」とは?

鈴鹿本(鎌倉中期写)

鈴鹿本(鎌倉中期写)

それでは更に、芥川龍之介が原作にした古典の「今昔物語」を追ってみましょう。

今昔物語は平安時代末期に成立したといわれている日本最大の説話集。31巻(現存28巻)から成り、1040の物語が収録されています。作者は不明で、どの物語も「いまはむかし」という書き出しで始まり、「~と、なむ語り伝えたるとや」で結ばれています。

構成は、天竺(インド)、震旦(中国)、本朝(仏法)、本朝(世俗)の四部構成。まず因果応報などの仏教説話が紹介され、その後に物語が続きます。登場人物は多岐にわたり、貴族、僧、武士、農民、遊女、盗賊、乞食、鳥獣、妖怪変化まで登場します。

芥川の「羅生門」は、この今昔物語の中の、本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を交えた加えたとなっています。

芥川は、擬態語を多用し、臨場感いっぱいの「今昔物語」の文体を、「美しいなまなましさ」「野蛮に輝いている」と評しています。

羅生門はどこにあった?

京都・平安京の羅城門

京都市南区にある羅城門遺址

京都市南区にある羅城門遺址

花園児童公園内に石碑が残っている。
羅生門は、本来は「羅城門」(らじょうもん)といい、羅生門と呼ばれるようになったのは後世になってのこと。

「今昔物語」に描かれた「羅城門」の舞台は現在の京都。かつて平安京にあった羅城門は、幅80mもあるメインストリートの朱雀大路の最南端にあり、ここが京の都の南の玄関口でした。

平安京の羅城門は弘仁7年(816)に強風で倒れ、その後再建されましたが、天元3年(980)の暴風雨で再び倒壊、以降、再建されることはありませんでした。
荒れるがままになった羅城門は、以後、狐狸妖怪や盗賊の住処となったようで…。

現在は東寺近くの公園の中に、「羅城門遺跡」と書かれた石碑が残るのみとなっています。
しかしJR京都駅の北口広場に、かつての10分の1の大きさの羅城門の模型が展示されていますので、京都に行ったら是非立ち寄ってみてくださいね!
22 件

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

ユカリノ編集部

ユカリノ編集部

全国各地の「ゆかりの」エピソードをほぼ毎日お届け。知ればもっと行きたくなる、歴史の聖地巡礼へご案内します! 公式

関連する記事 こんな記事も人気です♪

織田信長、伊達政宗らが欲した香木とは?日本人とお香の歴史

織田信長、伊達政宗らが欲した香木とは?日本人とお香の歴史

アロマテラピーがポピュラーになり、誰もが気軽に香りを楽しむようになった現代。その起源であり、古来より親しまれた「お香」は、貴族や武将に愛され、江戸時代には庶民にも広まるようになりました。かつては伊達政宗と前田利家、細川忠興がひとつの香木を巡って争ったといわれる、偉人と香りの関わりとともに、その歴史をご紹介します。
「日本男色史巡り 第11回:日本仏教の男色」美少年を巡って寺同士が大抗争!?

「日本男色史巡り 第11回:日本仏教の男色」美少年を巡って寺同士が大抗争!?

日本の男色史を、ゆかりの品や場所とともにご紹介する連載『日本男色史巡り』。第11回は、実は美少年の園だった日本の有名な寺社仏閣を巡ります。今月公開する日中合作映画「空海 KU-KAI」の主人公、弘法大師空海が中国から持ち込んだといわれる日本の男色。ときに惑わし、ときに悟りへと導いた美しい稚児たちの秘密とは!?
映画化にカフェ…今も地元・小田原で慕われる二宮金次郎

映画化にカフェ…今も地元・小田原で慕われる二宮金次郎

多くの学校に設置されている二宮金治郎(尊徳)の銅像。彼が本当に薪を背負って歩きながら本を読んでいたかは不明ですが、その勤勉な姿勢は金治郎の人生から読み取ることができます。今回は二宮尊徳の生涯とゆかりの地である神奈川県小田原市の“金次郎スポット”を中心にご紹介します。
完成から1300年!『古事記』と『日本書紀』が生まれた奈良県で古代ロマンに浸る旅

完成から1300年!『古事記』と『日本書紀』が生まれた奈良県で古代ロマンに浸る旅

2012年に完成から1300年を迎えた『古事記』、そして2020年には『日本書紀』も完成から1300年を迎えます。『古事記』と『日本書紀』が編纂された奈良県では、2020年までの間『記紀・万葉プロジェクト』が立ち上げられ、関連イベントも開催中。悠久の時を越え、奈良で古代ロマンに触れてみませんか?
国宝の絵巻に“藤壺宮”ゆかりの品も!この秋、会いに行ける「源氏物語」の世界

国宝の絵巻に“藤壺宮”ゆかりの品も!この秋、会いに行ける「源氏物語」の世界

平安時代に紫式部が執筆した「源氏物語」。日本のみならず世界各国で翻訳されるなど、今もなお愛されている古典の名作です。そしてこの秋も、各地で「源氏物語」を楽しむ関連企画が開催。平安当時の貴重な資料から、現代風の楽しみ方まで!その趣が感じられるスポットを厳選してご紹介します。
生誕900年の特別展も開催!世を捨て和歌に生きた歌人・西行法師の歩いた道

生誕900年の特別展も開催!世を捨て和歌に生きた歌人・西行法師の歩いた道

2018年は、歌人・西行が生まれてから900年の記念の年。生誕地である和歌山県・和歌山県立博物館ではその記念展が開催されます。多くの歌集に歌を残し、後世まで大きな影響を与えた彼の人生はどんなものだったのでしょうか。武家に生まれながらそれを捨て、僧として生きる道を選んだ西行の生涯を、ゆかりの地とともにたどってみませんか?
快慶、定慶…鎌倉時代の天才仏師「慶派」スーパースターの名品が堪能できる特別展

快慶、定慶…鎌倉時代の天才仏師「慶派」スーパースターの名品が堪能できる特別展

奥が深い仏像の世界。仏教の知識がないとなかなか理解できないのではという方も多いと思いますが、運慶と快慶といった「慶派」だけでも押さえておくと、親しみやすいかもしれませんよ。10月2日からは東京国立博物館の特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」も開催。初心者にも優しい仏教の世界に、足を踏み入れてみませんか。
平安美女・小野小町の美容食は『熊の掌』だった!【偉人が愛した肉料理:第5回】

平安美女・小野小町の美容食は『熊の掌』だった!【偉人が愛した肉料理:第5回】

毎月29日の「肉の日」にちなみ、食文化史研究家の永山久夫さんが偉人の愛した肉料理を紹介する連載。第5回は小野小町が食べていたといわれる『熊の掌』です。コラーゲン豊富で女性におすすめという熊の掌、小町の美の秘訣はその食べ方にあった?
【愛した道鏡との伝説も…】女帝・孝謙(称徳)天皇ゆかりの地

【愛した道鏡との伝説も…】女帝・孝謙(称徳)天皇ゆかりの地

東大寺の大仏を建立したことでも有名な聖武天皇の娘として生まれた孝謙天皇。史上6人目の女帝であり、2度の即位を果たした人物でもあります。寵愛する人物を側近に置き、時には入れ込みが過ぎるなど、波乱に満ちた彼女の生涯とともに、ゆかりの地を追ってみました。最期には、愛した道鏡との伝説も…?
清少納言も徳川将軍も!いつの時代も夏はやっぱりかき氷

清少納言も徳川将軍も!いつの時代も夏はやっぱりかき氷

7月25日は「夏氷」という語呂合わせから「かき氷の日」とされています。暑い夏を乗り切るため、涼を求めて食べるかき氷。甘いシロップがかかった冷たい氷を一口食べるだけで涼しさを感じますね。平安時代から食べられていたというその歴史や、当時の食べ方などをご紹介します。