「日本男色史巡り 第8回:南方熊楠」生誕150周年記念!奇才・熊楠の愛した兄弟とは!?
2018年3月30日 更新

「日本男色史巡り 第8回:南方熊楠」生誕150周年記念!奇才・熊楠の愛した兄弟とは!?

日本の男色史を、ゆかりの品や場所とともにご紹介する連載『日本男色史巡り』。第8回は、今年で生誕150周年を迎える異能の天才学者、南方熊楠。粘菌の研究で知られ、エコロジストの先駆けでもあった熊楠は実は、岩田準一と同じ男色研究家だった!?彼の唱えた「浄の男道」、そして愛した二人の兄弟とは。

黒澤はゆま黒澤はゆま

南方熊楠

南方熊楠

岩田準一よりもはやく男色について研究していた南方熊楠

前回ご紹介した、美貌の男色研究家、岩田準一。

彼は昭和5年から、犯罪科学に「本朝男色考」という連載を開始します。明治維新後の、何事も西洋をまねようとする風潮のなか、忘れ去られていた日本の男色の伝統と歴史を掘り返し、改めて世に問うた本作は、賛否いずれにせよ大変な評判となったのですが、その大反響のなか、一つの手紙が準一のもとに舞い込みます。

差出人の名前を見た準一は驚愕しました。

そこに記されていた名は南方熊楠。

粘菌の研究で世界中に名の知られた生物学者というだけにとどまらず、博物学、民俗学、人類学、植物学、生態学などなど、豊かな好奇心の望むまま、この世の森羅万象すべてを研究の対象とした、知の大巨人だったのです。

熊楠は手紙のなかで準一の「本朝男色考」を、

「ずいぶん綿密に調べたものにて、小生大いに感心致し候」

と褒め称えた後、史料考証上の瑕疵についていくつか指摘をしました。

熊楠は準一よりもはやく、男色の研究に手をつけていたのですね。

権威と才能に恵まれた、年長の男性に弱い準一は大感激。以後、恋人?の江戸川乱歩が見たら嫉妬するんじゃないかというような、へりくだり方で熊楠と文通を続けることになります。

そして、そのやり取りのなかで、熊楠は準一に「浄の男道」という理論を説き、自分自身の44年前の美しい兄弟との交情について語りだすのです。

属魂の美人、羽山兄弟

「南方熊楠」で検索すると、超童貞・最強ニートというパワーワードが出てくる熊楠先生。

確かに以下のような逸話が残る大変人であります。

・40歳で結婚するまで童貞
・ネイチャーに何度も記事の載った研究者なのに、まともに職についたことがなく生涯無位無官
・いつでも自由に反吐をはけるという特技を持ち、喧嘩で何度も悪用
・極度のテレ屋で、酒に酔ったまま講演、一言も話さないまま百面相を見せて帰る
・全裸で庭を散歩中、蟻にペニスを噛まれて腫れ上がったことをきっかけに、「蟻に噛まれることであそこをでっかくする」研究に没頭。実験のために自分のペニスに鶏のスープやはちみつを塗りたくる

ただ、こうした奇行エピソードに似合わず、若い頃の彼は、彫り深く端正な顔立ちの、今風イケメンでした。もっとも、二重のぱっちりとした目は、何かに憑かれたようにカッと見開いていて、狂気めいたものも同時に感じさせられます。

実際、熊楠は生涯のなかで何度か発狂に近い状態になっており、彼自身はそのことを「ふらふら病」という独特な言葉で呼んでいました。

そして、準一に手紙を送った時から46年前の明治19年(1886)も、熊楠は東大予備門を中退し、このふらふら病にかかっておりました。
これより四十四年前(今年只今より四十六年前)、小生東京にありしがふらふら病いとなり、和歌山へ帰り、保養のため父の生家が日高郡にあり、その親族またこの群に散在するをもってそここと遍歴せんと日高郡に来たりし
via 『南方熊楠男色談義―岩田準一往復書簡』(長谷川興蔵編集, 月川和雄編集、八坂書房)
そして、この日高郡は北塩屋にあったのが、医者として高名だった羽山という名家でした。この家には息子が5人おり、長男が繁太郎、次男は蕃次郎でした。繁太郎はもともと中学時代の旧友で、2人とも石集めが好きだったことをきっかけに仲良くなったようです。

兄弟は熊楠の言によると、
その宅の近所の小丘に熊野九十九王子の一なる塩屋王子の社あり。『熊野御幸記』にも載せたる旧社にて、古く俗に美人王子と号す。それゆえか、この家の五子、取り分け長男と次男は属魂の美人なり
via 『南方熊楠男色談義―岩田準一往復書簡』(長谷川興蔵編集, 月川和雄編集、八坂書房)
と絶世の美少年だったようです。この頃、美人という言葉は、男の方をあらわしていたということが分かって面白いですね。

東京での学生生活をしくじり、傷心の熊楠にとって、この美人兄弟との交流は何よりの薬だったようです。
塩屋王子神社

塩屋王子神社

大同年間(807年)に創始。平安末期、熊野詣の流行に伴い、天皇・上皇も訪れるようになり、「美人王子社」として有名になりました。参拝すると美人な子が授かる御利益があるとのことです。

日高川での別れ

日高川

日高川

via 写真提供:公益社団法人和歌山県観光連盟
この和歌山での保養中、熊楠は実家の方でも色々と「面白からぬ事」があり、渡米を決意します。

9月の終わりごろ、親族への挨拶のため日高を訪れるのですが、その際、羽山家に逗留しました。

熊楠としては兄弟との別れを尽くすつもりだったのですが、あいにく、妊娠中だった兄弟の母が産気づき、ついに早朝出産します。5人男の子が続いた後、初めての女の子でした。

当然、羽山家は上へ下へのてんてこ舞い、熊楠は「吾輩一時間止まれば一時間の厄介をこの家にかける」と思い、急ぎ羽山家を後にします。

見送るのは長男繁太郎ただ一人。
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黒澤はゆま

黒澤はゆま

宮崎生まれ。大阪在住。2013年に歴史小説『劉邦の宦官』でデビュー。他著作に真田昌幸の少年時代を描いた『九度山秘録』、世界史・日本史上の少年愛を紹介した『なぜ闘う男は少年が好きなのか』がある。愛するものはお酒と路地の猫。 公式

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