東海の覇者・今川氏が用いた謎多き家紋「二つ引両紋」【家紋のルーツ:第9回】
2019年1月7日 更新

東海の覇者・今川氏が用いた謎多き家紋「二つ引両紋」【家紋のルーツ:第9回】

家紋がいつ、どのように生まれ、なぜ使われるようになったのか?そんな家紋のルーツを日本家紋研究会会長の髙澤等さんがゆかりの地とともに紹介する連載。2019年は「海道一の弓取り」といわれた今川義元の生誕500年。そこで今回は今川氏の家紋「二つ引両紋」を中心にご紹介します。謎多き二つ引両紋のルーツを、足利氏との関係とあわせて紐解いてみましょう。

髙澤等髙澤等

今川氏が用いた家紋

歴史好きの方々の中でも、今川氏と云えば戦国末期に桶狭間の合戦で敗死した義元から、マイナスのイメージを持つ方が多いようです。しかし歴史に詳しい人ほど今川氏という存在に対して過小評価をしない、いわゆる玄人好みのする一族です。
今回は、2019年の今川義元生誕500年の節目を記念し、今川氏の家紋を採り上げたいと思います。
近年、室町時代がちょっとしたブームとなっておりますので、足利氏との関係にも触れつつ紹介していきましょう。
歌川豊宣『尾州桶狭間合戦』

歌川豊宣『尾州桶狭間合戦』

今川氏は足利一門として「二つ引両」「五七の桐」を用い、また「赤鳥」という謎の家紋も用いていました。
「五七の桐」は、今川氏の本家である足利家が天皇家から下賜された家紋で、「赤鳥」は今川氏成立後に一族の勲功を元に設定された家紋です。
今川氏の出自に関わる根源的な家紋は「二つ引両」と云えるでしょう。
二つ引両

二つ引両

via 提供:髙澤等
後世は丸に囲まれた「丸に二つ引両」が広く認知されることになりますが、元々は上図のように「丸」のない紋形でした。
応仁の乱の時の記録である『見聞諸家紋』にはその形が明確に描かれています。
『見聞諸家紋』に描かれている足利一門の家紋

『見聞諸家紋』に描かれている足利一門の家紋

via 提供:髙澤等

今川氏の母体は足利氏

足利氏は、現在の栃木県足利市から興った源氏の血筋を引く一族です。
実は同じ土地から藤原一族の足利氏が出ており、一門も多く勢力の強い一族でした。それまで源姓足利氏と併存していましたが、藤姓足利氏は養和元年(1181)年に源頼朝によって滅ぼされ、下野国足利荘は源姓足利氏が掌握することになりました。
藤姓足利氏が滅ぼされる前月に、源姓足利義兼が北条時政の娘を正室に迎えて頼朝と義兄弟となっているので、藤姓足利氏の排除は既定路線だったのかも知れません。
下野国一社八幡宮にある「源姓足利氏発祥之地碑」(栃木県...

下野国一社八幡宮にある「源姓足利氏発祥之地碑」(栃木県足利市八幡町2丁目14−14)

via 撮影:髙澤等
足利氏の館跡に建立されている鑁阿寺(ばんなじ)(栃木県...

足利氏の館跡に建立されている鑁阿寺(ばんなじ)(栃木県足利市家富町2220)

国宝の本堂屋根に「二つ引両」が見える。
via 撮影:髙澤等
今川氏は足利義氏の庶長子である吉良長氏(きら・おさうじ)の次男国氏(1243~1282)を初代としています。
今川氏の立場を表す逸話として、「田舎人の申事にや。御所絶は吉良継。吉良絶は今川継と申とかや」(今川記)と云われています。
それにしても、「吉良が絶えれば今川が継ぐ」という話しは有名ですが、「田舎人の申事にや」ですから実は一部の地方で語られていた都市伝説のようなものだったんですね。でもこうした事を言い続ければ何十年何百年もする内に真実味を帯び、それを利用しようと思う者もいたかも知れません。
今川氏発跡地(愛知県西尾市今川町土井堀17)

今川氏発跡地(愛知県西尾市今川町土井堀17)

via 写真提供:今福匡氏
鎌倉幕府滅亡の前後から、今川氏は一族の筆頭足利氏に従い戦功を重ねます。
そして今川頼貞(よりさだ)は丹後国、但馬国、因幡国の守護となり、続いて叔父の範国(のりくに)も駿河国、遠江国の守護となるなど、足利一門として重要なポジションにいたことが分かります。この範国の系が代々駿河守護を世襲して、戦国期に隆盛した今川氏となります。
『見聞諸家紋』に足利氏一門として名を連ねる今川氏

『見聞諸家紋』に足利氏一門として名を連ねる今川氏

via 提供:髙澤等
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髙澤等

髙澤等

埼玉県飯能市生まれ。長年、実父の日本家紋研究会前会長の千鹿野茂とともに全国の家紋蒐集を行う。家紋の使用家や分布などを、統計を用いて研究している。現在、日本家紋研究会会長、家系研究協議会理事、歴史研究家。著書に『苗字から引く家紋の事典』(東京堂出版)、『家紋歳時記』『戦国武将 敗者の子孫たち』(ともに洋泉社)などがある。 公式

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