ラッコ鍋で奮い立つ?海の動物たちが秘める意外な効果とは【偉人が愛した肉料理:第9回】
2018年12月29日 更新

ラッコ鍋で奮い立つ?海の動物たちが秘める意外な効果とは【偉人が愛した肉料理:第9回】

毎月29日の「肉の日」にちなみ、食文化史研究家の永山久夫さんが肉料理を紹介する連載。今回は巷で話題の「ラッコ鍋」から、海の動物たちに注目。縄文色が色濃く残った北海道や東北北部で、アイヌの人々が食べていた海の動物の肉、その意外な効果とは?気になる北方食文化に迫ります。

永山久夫永山久夫

日本人のルーツは肉食

日本人の現在の主食は米である。しかし、米食の歴史はここ3千年くらいのもの。その4倍もの太古から、私たちの遠い先祖である縄文人は、イノシシやクマなどの肉食を中心にして生活していた。

縄文時代は、今から1万3千年ほど前に始まったといわれる。当時はもちろん、木の実や山菜、魚介類も食用にしている。縄文の前の旧石器時代にはナウマンゾウも食べており、肉食の時代であった。

農耕の民に変化していく日本人

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縄文の終わり頃に米づくりが始まると、日本人は農耕の民となってしまう。日本列島の中には、南方系の稲作りが適さない土地もあった。亜寒帯の北海道や東北北部。そこには、縄文的色彩の強い食文化が残った。
それがアイヌの人たちの北方食文化であり、本州山岳地帯のマタギ文化である。農耕に縛られるよりも、縄文的に狩猟を中心とした自由な暮らしを選択したのである。

オットセイにトド、そしてラッコも食べていた?

北海道各地の縄文遺跡からは、シカやクマの骨も出土しているが、オットセイやトド、アシカ、イルカなどの骨もたくさん出ている。
江戸時代中期に編纂された「和漢三才図会」に描かれたアシ...

江戸時代中期に編纂された「和漢三才図会」に描かれたアシカ・オットセイ

via 国立国会図書館デジタルコレクション
私の生まれた東北の海辺の村にも、戦前によくオットセイが漂着し、食用にされていたと古老から子供の頃に聞いたことがある。その肉で干し肉を作り、疲れた時や精力剤に用いていたらしい。

天下をとった戦国大名の徳川家康(1543~1616)も、世継ぎ作りのスタミナ食として海狗腎(オットセイ)を北海道から取り寄せ、食べている。
最近、人気漫画に登場した“ラッコ鍋”なるものが話題になっているが、ラッコも当然食べられていただろう。イタチ科の海獣で、ウニやアワビなどの貝類、それに昆布などの海藻も食餌にしており、ラッコの肉は美味だったはずである。
「大日本物産図会」千島国海獺採之図(歌川広重)

「大日本物産図会」千島国海獺採之図(歌川広重)

ウニの味が良いのは、調味料の原料となるグルタミン酸を含む昆布を食べているためである。グルタミン酸は貝類にも多く、ウニや貝類を多く食べているラッコの肉にも、旨味成分が濃縮されたとみられる。

話題のラッコ鍋には媚薬作用がある?

前述の漫画では、アイヌの言い伝えとして古老が「ラッコ鍋を食べる時には、男女同数で部屋に入るように」というようなことをアドバイスしていた。ラッコにもオットセイと同じように発情作用のある成分が含まれていると推測され、それこそ、アルギニンという愛情をふるい立たせるアミノ酸なのである。

はたして本当にラッコには媚薬効果があるのか?
気になるところだが、明治時代に施行された「臘虎膃肭獣(らっこおっとせい)猟獲取締法」により、ラッコは現在狩猟規制されてしまった。その効果を確認できないのが残念である。
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永山久夫

永山久夫

食文化史研究家。食文化史研究所、綜合長寿食研究所所長。元西武文理大学客員教授。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。長寿食や伝統的な和食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年研究している。著書に『永山豆腐店 豆腐をどーぞ』『和食の起源』『日本人は何を食べてきたのか』『100歳食入門』『長寿食365日』『なぜ和食は世界一なのか』など多数。 公式

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