第1回:最後の将軍・徳川慶喜長寿の秘訣は豚肉だった?【偉人が愛した肉料理】
2018年7月15日 更新

第1回:最後の将軍・徳川慶喜長寿の秘訣は豚肉だった?【偉人が愛した肉料理】

食文化史研究家の永山久夫さんが、肉を愛した偉人をエピソードとともに紹介する連載がスタート。第1回は大河ドラマ『西郷どん』にも登場している徳川慶喜です。「豚一様」と呼ばれるほど豚肉が大好きだった慶喜は、新しもの好きで、相当なグルメだったよう。現代の健康法にもつながった?慶喜の食生活をご紹介します。

永山久夫永山久夫

 (18610)

欧米や他のアジアの国と違い、日本では長らく肉を食べてこなかったとされている。
実際には旧石器〜縄文時代頃、狩猟によって肉は食べられていた。

しかし、天武天皇4年(675)に「殺生肉食禁止の詔」が出され、明治5年(1872)に明治天皇が肉食を解禁するまで約1200年もの間、食べなかった時代が続くこととなる。
その間も完全に肉食がなくなったわけではなく、養生や病気の回復のためにイノシシやシカなどが食べられていた。

この連載では各時代の肉好き偉人に焦点をあて、彼らがどんな肉をどのように食べていたか、エピソードとともに紹介しよう。

「豚一様」と呼ばれた将軍

徳川慶喜

徳川慶喜

慶応3年(1867)頃の慶喜。
徳川将軍は、家康という粗食将軍で始まり、慶喜というグルメ将軍で終幕したといってもいいだろう。
その間、ざっと260年。時代の変化である。

初代の徳川家康は粗食を貫き、「麦めし」を食べながら戦い続けて、豊臣秀吉の時代を終わらせ、天下をとった。
一方、最後の将軍となった15代目の徳川慶喜は、豚肉が大好きで、「豚」と「一橋家」をかけて「豚一様」とも呼ばれていた。
特にお気に入りは薩摩の黒豚で、薩摩藩家老の小松帯刀に何度もねだっていたという。
小松帯刀

小松帯刀

慶喜に頼まれ、手持ちの豚肉を全て差し出したという帯刀。その後もねだられて困ったという手紙を大久保利通に送っています。
幕末になると、江戸の町では肉鍋を出す店が増えるなど、それまでタブーとされてきた社会システムもほころび始めていた。
家康以来の幕藩体制はすでに老朽化していて、時代の変化に対応する能力がなくなっていることを、グルメ将軍の慶喜は、幕臣の誰よりも知っていたのであろう。

慶喜が豚肉をどう調理して食べていたのか?残念ながら記録に残っていない。
肉鍋が有力だが、明治後期にはとんかつも登場していたから、食していたかもしれない。
また豚肉ばかりではなく、牛肉やジビエ料理もよく食べ、ウナギの蒲焼きも大好きだったという。
 (18612)

慶喜も食べていたかもしれない?とんかつ。

「肉食長寿法」を先取りしていた慶喜

軍服を着て決めポーズ!?

軍服を着て決めポーズ!?

幕末の頃の慶喜。この頃から写真が好きだった!?
慶応3年(1867)に大政奉還を断行し、翌年の明治元年(1868)にはすべての公職から去り、駿府に移っていた慶喜。
30代そこそこで暇な隠居生活に入ったようなものであるが、彼は違っていた。忙しくて仕方がなかったのである。
多趣味なうえ、新しいものが好きで、いったん関心を持つととことん熱中する性格であった。

その良い例が無類の写真好き。カメラの操作だけでなく、自身がモデルになるのも好きだったようで、当時の決めポーズをした写真が何枚も残されている。
油絵にも凝ったし、刺繍や自転車、狩猟にも凝っている。明治の流行の先端に立つ文化人だったのだ。
晩年の慶喜

晩年の慶喜

大礼服を着た慶喜。
徳川家康は、麦めし中心の「粗食健康法」で75歳まで生き、16人の子作りをしている。
一方慶喜は、初代よりも2年長生きし、大正2年(1913)に77歳で大往生。子どもも24人作っている。当時の平均寿命は40歳前半だから、見事な長寿である。

日本人の寿命は戦後、肉食が増えてから急激に伸びた。今や世界一の長寿民族である。
いってみれば慶喜は「肉食健康法」を先取りしていたといえるだろう。
新しもの好きで時代の先端をいっていた慶喜。もし明治政府にも貢献していたら、また違った時代になっていたかもしれない。

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永山久夫

永山久夫

食文化史研究家。食文化史研究所、綜合長寿食研究所所長。元西武文理大学客員教授。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。長寿食や伝統的な和食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年研究している。著書に『永山豆腐店 豆腐をどーぞ』『和食の起源』『日本人は何を食べてきたのか』『100歳食入門』『長寿食365日』『なぜ和食は世界一なのか』など多数。 公式

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